ハーブをいろいろ育てて、お気に入りの種類が出てくるようになると、次は、「そのハーブを増やしたい」と思うようになるものです。
一株だったハーブが、二株、三株、それ以上に増えると思うとやはり嬉しいですし、しかも自分の手で枝から根を出させて増やすことができるなんて、私も初めて挿し木をした時には植物の不思議な性質に驚くとともに感動したものです。
※「挿し木」と言ったり、「挿し芽」といったりしますが、一般に木質の硬い枝を使う場合は「挿し木」、柔らかい枝を使う場合に「挿し芽」と区別して呼ぶこともありますが、この講座では便宜上、どちらも「挿し木」という表現で統一します。
3つの大切なこと
最初に、挿し木をする時に大事なことが3つありますので、おぼえておきましょう。
- 状態の良い親木を選ぶこと
- 適切な時期に行うこと
- 挿し木をした後の管理を丁寧にすること
この3つをきちんと守ると、挿し木はうまくいきます。以下、すこし詳しく説明します。
1. 状態の良い親木を選びましょう
まず、状態の良い親木を選びぶこと。挿し木がうまくいくために一番大事な条件です。弱々しいものや、病害虫がついたものはよくありません。
また、挿し木がしやすい種類であるかどうかも大事。たとえば、セリ科のフェンネルを挿し木しようとしてもまず発根しませんし、一年草のボリジの挿し木もまず無理です。一般にシソ科のものは挿し木しやすいと言われますが、シソ科のセイジ・サルビアの仲間でも、なかにはとても発根しにくいものもあります。
最初は、ミントの仲間で試してみると発根も速いですし、失敗も少ないと思います。生育旺盛なアップルミントあたりもよいですね。また、オレガノも比較的挿し木がしやすいです。慣れてきたらローズマリーやラベンダー仲間のように枝が硬いものにも挑戦してみましょう。枝が固めのものはやや発根まで時間がかかることが多いです。
2. 適切な時期に〜梅雨時とは限りません
「梅雨は挿し木のシーズン」・・・昔からよく聞く言葉ですが、全ての種類に当てはまるわけではありません。たとえば、ラベンダーを梅雨時期に挿し木してみましょう。一部の種類を除いて、大抵うまくいきません。この時期、ラベンダーは花を咲かせたり種子を付けたりすることに集中しているので、根を出そうという気があまりないのです。ラベンダーの場合は、地域にもよりますが、秋か、春早いうちの方がうまくいきます。なので、地域によっては、真夏や真冬が成果が良いところもあったりします。
また、梅雨は雨が当たる場所で挿し木を管理する場合は、集中豪雨などの心配も多いものです。また、過湿やカビなどが原因で失敗することもよくあります。特に過湿に弱い種類は梅雨の挿し木は結構難易度が高いものです。
では、いつ挿し木をするとよいかということになりますが、適期はそのハーブの生育サイクルによって判断すると良いでしょう。
まず、開花の前後や、種子を付けようとしている時は挿し木はうまくいきません。また、挿し木をして発根する前に開花してしまうのもよくありません。たとえば、ラベンダーを春に挿し木すると、タイミングが遅ければ、発根する前に花が咲いてしまうこともあります。もっと早い時期か、もしくは前年の秋に行うと良いでしょう。一方、秋遅くから冬に咲くローズマリーを秋に挿し木すると、同じようなパターンになります。むしろ、開花が終って、一段落した初夏以降に挿し木をするとうまくいきやすいです。また、「何月頃」というのは、地域によってもことなります。涼しい地域ではラベンダーを8月に挿し木してもつくと言われますが、暑い地域ではかなり大変だと思います。
ちなみに、梅雨に挿し木がうまくいきやすい種類は、夏に強く、秋に咲くようなセイジ、サルビア類です。パイナップルセイジなど、初心者でも比較的簡単にできますので試してみてはいかがでしょう。※地域によっても若干異なります。
3.挿し木をした後の管理を丁寧に
挿し木を行った後、確実に発根するまでは様子を見ながらきちんと管理しましょう。一般に、挿し木は、普通の鉢植えなどより、頻繁に水やりをしたり、場所も選びます。放っておいてはよくありません。また、発根したら速やかにポット上げなどして次の段階に進みましょう。詳しくは、ハーブの挿し木・挿し芽(挿し木後の管理編)で、説明いたします。
挿し木の準備
さて、いよいよ準備です。用具は次のようなものをそろえておくと良いでしょう。
挿し床用の容器
挿し木をする時に使う容器にはいくつかあります。たくさん挿し木する時には平たい大型の育苗トレーを使うこともありますし、小さな素焼き鉢でも良いでしょう。枝が短ければ浅めの鉢、枝が長ければ深い鉢を使います。また、プラグトレーを使うことも出来ます。これは、種まきの時もそうですが、発根したものからポットあげできるのが便利です。適当なサイズに切って使うと良いでしょう。いずれも清潔なものを用意しましょう。
「イチゴの空いた容器を使って・・・」というアイディアもありますが、中には柔らかくて、「持ち運ぼうとしたらつぶれた」というかたもいらっしゃいました。ある程度しっかりしたものの方が根のためにも安心です。
挿し木用土
「庭に枝を挿してたら、ついちゃった」
と言う話も時に聞くことがあります。
絶対無いわけではないですが、これは色々な条件が重なったラッキーな例。
なので、用土は肥料分の無い清潔な用土を使いましょう。慣れていない時は市販の挿し木専用の用土を使うと良いですし、赤玉土や鹿沼土だけ、砂だけ、バーミキュライトだけというように、単一の用土で行うこともあります。赤玉土や鹿沼土には粒のサイズが色々あります。このサイズでなければダメというわけではありません。比較的小粒の方が使いやすいようには思いますが、大粒で上手に挿し木をしておられる方も多くいらっしゃいます。
また、挿し木がうまくいかなかったら用土を変えてみるのも一つの手です。一般には柔らかい茎を挿す時には柔らかめの土で、硬い枝を挿す時には固い土を使うことが多いようです。
発根剤
ホルモンの働きを調整して、発根しやすくする発根剤が市販されています。挿し木の時は必ず必要と思っている方も多いようですが、必ずしも使わなくても良いと思います。それよりもより良い親木から良質な挿し穂が取れるかどうかの方がずっと大事です。以前、発根剤を使った挿し木と使わない挿し木を比較してみましたが、結果はほとんど変わりませんでした。それでもやっぱり不安という方は使ってみても良いかもしれません。
ボウルなどの水を入れる容器
挿し木を処理した時に、しばらく水に浸けておきます。そのための容器があると良いでしょう。浅めのものがお薦めです。キッチンで使うボウルが使いやすいです。二つぐらいあってもよいでしょう。
カミソリ、はさみ
挿し木の処理は一般に鋭利な刃物で行います。初めてはちょっと怖いかもしれませんがカミソリが一番です。ものの本などで「ガーデンナイフで」と書いてあったりしますが、挿し木ができるぐらい鋭利にするには普段からしっかり研いでおかなければなりません。両刃のカミソリがお薦めです。10枚で数百円ですが、かなり長く使えます。ただし、慣れないうちは気をつけて。挿し木の講習会をすると、必ず一人は手を切ってしまわれる方がいらっしゃいます。
他に挿し穂をとるときのための園芸ばさみがあると良いでしょう。多目的ハサミのようなものでもよいです。太い枝で、カミソリが使えない場合にはハサミで処理することがあります。切れ味が良いものがおすすめです。
親木〜もっとも大事なもの
最後に一番大事なものを準備しましょう。挿し穂をとる親木です。
鉢植えの場合は、鉢ごと用意しましょう。もし、地植えのものであらかじめ収穫しておかないといけないものは、直前に収穫を。それでも、容器に水を張って、浸けておくと良いでしょう。
さあ、準備はできましたか。次はいよいよハーブの挿し木・挿し芽(実践編)です。
いかがでしたでしょうか。もし、まだ良く分からないことがあるという方のためには初心者の方専用ホットラインをご準備いたしております。ご質問等お気軽にお寄せください。