目次
- 植物は与えた水を直接吸うわけではない
- 市販の用土は乾燥しすぎている
- 水と土と根の連携をとるための三つの段階
- 水と土と根をなじませる水やり方法
- 植え付け後から活着までの水やり
- 活着後の水やり
- それでもうまくいかない時は
- まとめ
今回は少し上級者向けの内容ですが、「植え付けた後、いつも水やりがうまくいかなくてハーブをすぐに枯らしてしまう」という方は根気強く読んでみてください。ヒントや改善方法が見つかるかもしれません。
また、植え付け後から活着までの水やりと、活着後の水やりのポイントも紹介しています。健康なハーブを育てる上で参考になると思います。
ハーブを育てるのもまだこれからという方は事前にハーブの水やりを考える(鉢植え編)を読んでおくとより理解しやすいと思います。説明のながれのため、一部内容が重複しております。ご了承ください。
植物は与えた水を直接吸うわけではない
まず最初に、鉢植えのハーブに水やりをするときのことを考えてみましょう。私たちが与えた水を、植物=根がそのまま吸っていると思いがちではないでしょうか。
でも本当は、水と根の間にはいつも土が関わっています。 根は、与えた水をそのまま吸い上げるというよりも、土に染み込んだ水を吸収しています。また、そうイメージしたほうが、上手に水やりができるようになります。
ところが、あらたに鉢植えを作った時点では、水と土、根の連携がまだとれていない状態です。水を与えても土にきちんと染み込まず、根も土になじんでいないので水がスムーズに根まで届きません。
この状態では、ハーブが成長しなかったり、最悪の場合、徐々に弱っていき・・・ということにもなりかねません。
自然のなかでは、種子が発芽して、植物にとって都合が良い場所に自分で根を広げていって水や養分を吸収しようとします。我々が植物を植えるときにも、植物が根を伸ばすのに都合が良いように水・土・根の連携をとって水が植物に届くようにしてやりましょう。
市販の用土は乾燥しすぎている
次に、鉢植え用の土について考えてみましょう。当店のオリジナルハーブ用土もそうなのですが、購入した時はかなり乾燥しています。
それには理由があります。 市販されている土は、生産地から輸送されて私たちの手元に届きます。この時、水分を含んで重い状態では送料に大きく影響します。商品として、乾燥して少しでも軽いことが望まれるのです。
また、袋詰めされた土は、湿り気が多いと土が変質しやすくなります。気温が高い時期などは腐敗する恐れもあるため、なるべく乾燥した状態で流通しています。 その証拠に、鉢に土をいれた時にはそれほど重くなくても、育て初めてしばらくして土の水分が安定してくると非常に重くなるのは、鉢植えを作ったことがある方なら必ずと言っていいほど経験していることでしょう。
ところが、そういった乾燥した土は、おおむね水を吸いにくいという性質があります。特にピートモスなどが大量に含まれていると水を吸いにくいものです。
ピートモスは極端な例ですが、乾燥しきった土に、植物がわざわざ根を伸ばそうとするでしょうか。植物はそんな無駄なことはしません。
まずは、植え付け直後の乾燥した土に適切な方法で水を与えて、植物が水を吸いやすい湿り具合にしてやるのが第一歩です。
ちなみに、当店のオリジナルハーブ用土は、乾燥させすぎないよう、若干の水分を残すようブレンドしています。比較的適切な湿り気に戻りやすいですが、そのぶん市販のハーブ用土に比べると重量があります。
水と土と根の連携をとるための三つの段階
以上のことを念頭において、植え付け直後の水やりには次の三段階があることを知っておくとなお初期の水やりがうまくいきます。
1、土が適切な湿度に戻る
苗を植えた直後の水やりは「苗に水を与える」というよりもむしろ「土を適切な湿度に戻す」つもりで行うのが良いでしょう。
コーヒーをドリップで淹れたことがある方は想像しやすいと思います。上手にコーヒーを淹れる人を見ていると、挽いたコーヒーに、一気にお湯をジャボジャボとかけることはしないですよね。最初はお湯を少しずつ何度も繰り返し注ぐことで、お湯を丁寧に浸みこませることから始めています。
乾燥した土に水を染み込ませる時も同じような気持ちで与えると上手くいきます。
特に、1回目、2回目の水やりは、乾燥した土に満遍なく水を染み渡らせるような気持ちで行うのが良いでしょう。 (では、あらかじめ土を湿らせておくというのはどうでしょう?これも方法としてはありなのですが、湿らせた土を鉢に入れたり、苗と土をなじませる作業が難しくなりますので、初心者のかたにはあまりお勧めできません。)
2、根と土がなじむ
また、水やりの大事な目的には、根と土をなじませるはたらきがあります。苗を植えたばかりは、土をぎゅうぎゅう押さえても、水分や養分を吸うための微細な根と土の間には必ず隙間(余分な空気)が残ります。水を与えることで空気を抜き、土の細かい粒子を土と土の間に行き渡らせて余分な(大きい)隙間をなくすことが大事です。それによって、細い根が湿り気を吸った土となじむようになります。
(補足)もっと大きな樹木などで根と土をなじませる時には「水ぎめ」という作業をします。バラの苗木を定植するときにもする作業です。詳しくはネットの動画などを探してみていただくと理屈がわかりやすく、理解も深まるでしょう。
※水やりとは直接関係ありませんが補助的に土と苗の隙間を埋める方法として、水を与える前に、鉢の側面をトントン叩いたり、柔らかなプラスチック製の鉢の場合はふちをたわませるなどしても良いでしょう。
3、植物が水を吸収できるようになる
そして、土が適切な湿り気を帯び、新しい土に細かい根がなじんだらようやく植物が安定して水を吸収できる状態になります。しばらくして根が伸び始め(植物の種類や時期によって期間が異なります)、地上部にも目に見える成長が始まるとようやく「活着」したと言えます。
これ以降は極端に乾燥させすぎない限り、土は水分を保持する力を保ちますので、植物が吸い上げて土が乾いた分だけ水を与えるようにするのが理想です。
当然、土の種類を変えたり、配合を変えれば湿り具合・乾き具合も変わってきます。園芸のベテランやプロが頻繁に土のブレンドを変えない理由もそこにあります。
水と土と根をなじませる水やり方法
では、以上の段階をふまえた水やりをしてみましょう。
最初はとにかくゆっくりたっぷりと水やりを
まず、鉢植えができた後、最初の水やりは、全体に、丁寧にゆっくりと、鉢の底からたっぷり水が流れ出すまで水を与えます。
基本はこれで良いのですが、土の種類やコンディションによっては、これでもまだ十分に土全体が湿らないこともあります。可能ならば20〜30分後にもう一度同じように水を与えておくとなお良いでしょう。真夏のように気温が高い時も再度の水やりはお勧めです。
水をやるジョウロにも気を配って
全体に均一に、たっぷりと水を与えるためにはジョウロなど、ハス口を使うのが理想です。細く出る水差しや、スプレーはお勧めしません。
大地でも長期間雨が降らない日が続いた後は、ゲリラ豪雨のような一気に大量な雨が降っても作物には意味がなく、シトシトと何日も弱い雨が降る方が喜ばれるのと同じです。
また、特にラベンダーやローズマリー、セイジのような乾燥を好むハーブは葉の裏に泥がつくのをとても嫌います。水やり後、泥がついているようなら、優しく落としておきましょう。そういう意味でも優しく水を与えることのできる細かいハス口がおすすめです。
葉水をする(葉にも水をかける)かどうかについては意見がわかれますが、自然界でのことを考えると、かける方をお勧めしています。ただ、真夏、葉の温度が上がっている時は株元への水やりが葉には優しいようです。
サイズが大きい鉢の場合は繰り返して水やりを
また、大きい鉢を使う場合は、更に数時間経ってから再度たっぷり水を与えるとなお安心です。しばらくしてから、根の負担にならないよう鉢の縁の方を少し掘ってみて、中の湿り気を確認してみましょう。土の表面は湿っていても案外中の方はカラカラだったりします(土が適切なコンディションになると、逆に表面が乾いていても、中の方が湿っているようになります)。そんなときは何度か水やりを繰り返す必要があるかもしれません。
植え付け後から活着までの水やり
植え付け時の水やりと同じぐらい大事なのが、そのあと活着まで(根付くまで)の水やりです。
植え付けてしばらくは毎日のように見ていても、数日経ってもなかなか成長しないとどうしても興味は薄れるものです。この時に気が抜けて水やりを怠ってしまって取り返しのつかないことに・・・というパターンがよくあるようです。もうちょっとだけ植物に目を向けてやりましょう。
活着までは日数がかかるもの
植物を鉢に植えただけでは、まだ根が伸びていません。根付いて成長を始めるまではある程度日数がかかります。
植物の種類や季節にもよりますが、少なくとも数日から10日程度は様子を見てやりましょう。もちろん、それまでの水やり、土の湿り気の調整は大事です。
春から夏の気温が高い季節のバジルやミントならば、2~3日で根付いて成長が見られることもありますが、大抵は1週間から10日ぐらいしないと成長が見られないことが多いものです。
特に、気温が低い冬の間だったり、ローズマリーやラベンダーなどの樹木系のハーブは活着まで時間がかかり、ひと月単位の時間がかかる場合もありますから、気長に待ちましょう。目に見えて枯れていくようなことがなければ心配はいりません。
(参考)一ヶ月たってもゼラニウムとラベンダーが成長しません | ヘルプ・Q&A
ぜひ、植え付けた時に写真を撮っておくと良いでしょう。毎日見ていると成長に気がつかなくても、実際はしっかり伸びていることもよくあります。
植え付け後の土の様子と水やりの頻度
植え付けて1~2日後にはあらためて土の様子を確認してみましょう。土の全体に過不足なく水が行き渡っているでしょうか。鉢を持ち上げてみるのも良いでしょう。妙に軽く感じるようなら水が足りなかったり、全体に染み込んでいないこともあります。
十分に湿っているのならそのままでも良いですし、乾いているのなら再度たっぷりと与えましょう。
その後、基本的には1日おき、更に2日空けて、3日空けて・・・と徐々に水やりの間隔をあけていくようにします。
とはいえ、これは季節や天気、風の強さ、植物の大きさや葉の量などにもよりますので一概には言えません。気温が低かったり、雨が当たる場所に置いているならば、しばらく水やりが必要なくなる場合もあります。極端に気温が高く、風も強い場所なら毎日のように与える必要も出てきます。土の配合や鉢のサイズにも左右されます。
気をつけたいポイント
ただ、少なくとも植物の成長(葉が大きくなり始めるなど)が見え始めるまでは極端に乾燥させないように注意しましょう。
葉がしおれたり、枝先がくたんとなり、黒くなったら要注意。水が根からきちんと吸収されていない可能性があります。たっぷり水を与えて直射日光の当たらないところにしばらく置いてみましょう。
葉の先端が茶色になるぐらいならば一時的な水切れが原因。黄信号程度です。それほど心配はありませんので、しばらく気をつけて水やりをやれば大丈夫です。
(参考)ミントの葉の周りが茶色くなり始めました | ヘルプ・Q&A
もちろん、湿りすぎ・乾きすぎでも根が伸びていきません。
周囲に湿り気がありすぎると、そのままでも十分な水分が供給されるので、根が伸びようとしません。いわゆる「怠けている」状態になります。ひどい場合は、根腐れを起こしたり、最悪の場合は土が腐敗するおそれもあります。
逆に、周囲の土が乾きすぎていると、根はそもそもそのようなところに伸びようとはしません。
活着のサイン
土の湿り気が安定し、植物も根を伸ばす態勢ができ、いよいよ根を伸ばし始めると地上部にも変化が見えてきます。小さな葉が日に日に大きくなってきたり、目に見えて茎が伸びてくるようになったら、おめでとうございます。活着した(根付いた)と考えても良いでしょう。
また、何度か水やりをしたことで、この頃には土もいっそう落ち着いてきます。
土が安定してくると、鉢全体に水が行き渡りやすくなります。土も適度に締まり、一方で隙間もあるという理想的な状態に近づきます。水をやったときも、鉢の縁までのスペース(ウォータースペースと言います)にたっぷり水が溜まり、それが徐々に鉢にしみ渡っていくようになります。
実際、栽培初期にいちばん難しいのが活着までの水やり加減です。これは我々のように職業として植物を育てていてもいつも難しく、気が抜けません。
活着後の水やり
さて、活着まで(根付くまで)と、成長を始めてからの水やりは少し考え方を変えましょう。人間も離乳食から普通食へ変わっていくときのように、自分で積極的に根を伸ばして水分や栄養分を吸収できるような育ち方を目指しましょう。
成長を始めたら厳しめな水やりにチェンジ
無事活着して明らかに日々の成長が眼に見えるようになってからはより回数を減らし、少し厳しめに水やりをするようにしましょう。厳しめの水やりは病害虫の予防、香り成分の向上、徒長防止など、いい事づくめです。
基本は「湿っていたら水はやらず、乾くまで待ってからたっぷり与える」です。また、植物の顔を見て(葉の様子を見て)水やりをしましょう。葉がしおれ始めた時が厳しめの水やりのベストタイミングです。
私たちも、喉が乾いてからのビール(スポーツドリンクでもいいですが)の美味しさや、腹ペコの時の食事の美味しさは体に染み渡ります。逆に、喉が渇いてない時や、満腹の時はどうでしょう。植物も同じだとイメージすると良いでしょう。
成長後の水やりのために
あわせて成長が始まってからの水やりには次のようなことも頭に入れておくと良いでしょう。
一般的に、葉が小さくて硬い植物は水の消費量は少なめで、葉が大きくて柔らかいものほど水をよく吸います。成長期と休眠期(特に落葉期)では大きく水の消費量が異なります。落葉している植物にじゃんじゃん水をやってもあまりよくありません。
日差しが強い日、風が強い日、湿度が低い日、気温が高い日は植物の水の消費量が増え、土も良く乾きます。その逆もまた然りです。置き場所によっても水の消費量は変わりますので置き場所を工夫したり、夏などは日除けなどをすると乾燥対策に有効です。
そう言ったことを考えると「水やりは何日に一度」という表現があまりに適当だという事がお分かりいただけると思います。
ほかにも、乾きやすい素焼き鉢などは鉢カバーをしても乾燥を抑える事ができます。どうしても乾きやすい鉢植ならば、根本的な対策として、鉢サイズを大きくするのも良いでしょう。
また、あまりに水がよく切れるようならば、剪定して葉の量を減らしてみましょう。渇水の年などにも使えるテクニックです。
よくある勘違い
成長し始めてから、下の方の葉が枯れ出して、心配になる方もよくあるようです。ただ、これは植物が古い葉を落として新しい葉を伸ばすことで、葉を更新させようとしているためです。むしろきちんと成長しているからこそ見られる動きですから、枯れ始めたからといって大量に水をやったりしては逆効果です。いままでの調子で水やりを続けるのがよいでしょう。
(参考)ゼラニウムの下の方の葉が黄色くなり始めました | ヘルプ・Q&A
それでもうまくいかない時は
植えた後の水やりが上手くいかなならば、上記のどこかに問題があると考えて改善してみましょう。
ただ、それでもうまくいかない場合もあります。苗と、定植する土の性質が大きく違うときはなかなか根が伸びにくいことがあります(当店のオリジナルハーブ用土や、ハーブ鉢植えセットの土は育苗用土と同じですので、よりなじみやすくなっています)。
そんなときは少し苗の方の土を落として、根に刺激を与えるのも良いでしょう。
ちなみに、大きな樹木を移植するときには、周囲に、その樹木が元あった場所の土を混ぜることで、新しい土となじみやすくする方法もあるそうです。
また、鉢植えで育てている途中、水のやり忘れで土が極度に乾燥し、水を吸わなくなってしまうようなことがあります(水を弾いてしまう感じです)。いくら水をやっても、下から出ていくばかりになって、水を与える前と与えた後で重さがほとんど変わらないなら、上記の、市販の用土は乾燥しすぎていると同じような状態で保水力がなくなり、水が吸収されません。保水力を復活させるために、水を張ったバケツに時間〜半日程度入れておくという方法がありますので、試してみてください。
まとめ
水やりはハーブの水やりを考える(鉢植え編)でも述べたように、「水やり3年」と言われるぐらい奥が深い作業です。
とはいえ、今回説明してきた土の湿り具合や、根と土をなじませる感覚、植え付け後の水やりのタイミングなどは、長く園芸をしていると自ずから身につくものです。園芸上手な方は、頭で考えなくてもできています。
慣れてくると、「こういう種類だから、この季節にこのぐらいの鉢植えなら、明日雨が降るし、今日水をやれば次は3日後に見れば大丈夫かな」という感じでできるようになります。
水やりがうまくいかなくて、植物を育てることを諦める方もたくさん見てきましたが、水やりは経験を重ねることによって必ず身につける事ができます。
また、そのためにはたくさんの失敗を経験することも必要です。我々も今までいったいどれほどの数のハーブを水やりに失敗して枯らしてきたことでしょう。
でもいったん身につけば、いままでの苦労が嘘のように水やりが楽になり、栽培も楽しくなります。一度失敗したからとあきらめずにチャレンジしてみてください。
また、これは鉢植えでの初期の水やりについての説明ですが、基本的な考え方は地植えにも応用できます。ぜひ参考にしてみてください。
いかがでしたでしょうか。もし、まだ良く分からないことがあるという方のためには初心者の方専用ホットラインをご準備いたしております。ご質問等お気軽にお寄せください。