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無農薬は難しくない
初心者の方でもハーブを無農薬で育てることは決して難しくありません。よくいただく質問のなかに、「初心者ですが、農薬を使わなくても育ちますか?」というのがありますが、むしろ、園芸初心者のかたが、農薬を適切に使って育てるほうが難しいのではないかと思います。
そもそも当店は、「無農薬だ!農薬を使わずに育てるんだ!!」と目を吊り上げて必死になって育てている訳ではありません。「使わなくて済むものは使わない方が楽」という程度に肩の力が抜けていないと長続きしなかったでしょう。
また、農薬はタバコや薬物と同じで一度使い始めるとその依存から抜け出すのは容易ではありません。できるなら始めから使わないですめばそれが一番楽です。なので初心者だからこそ無農薬で育てるのをお勧めしたいと思っています。
無農薬栽培は特別だと思われている節がありますが、ほとんど全てと言っていいほどのハーブは無農薬で育ちます。いままでの経験からどうしたら無農薬でハーブが育てられるかをこの講座ではご紹介していきたいと思います。
ハーブの楽しさの一つは、自分で育てた植物を料理やハーブティーに使えることです。ぜひ農薬を使わずに育てたハーブを安心して楽しんでみてください。
無農薬で育てるための考え方
まず、無農薬で育てる時、次のようなことを念頭に置いておくとうまくいきやすいです。
急がない
早く育てようと思うと、ついたくさん肥料を与えたり、水をやったりしてしまいます。また、まだ気温が低い時に成長が悪いからといって暖かい屋内にいれたりするのはもってのほか。柔らかく育って病害虫の原因になります。育つのに適した季節はそのハーブが一番よく知っています。必要な季節になれば自然に育ち始めます。急がず待ちましょう。
対策の前に原因を
「どうしたらいいか」より先に、「どうしてそうなったのか」を考えるようにしましょう。対策を優先すると、安易に農薬を使ってしまうことにつながってしまいます。何か原因があるので、害虫がやってきたり、病気にかかります。原因がわかれば次回からの対策も立てやすいです。
育てるのではなく、育つ手助けをしてやる気持ちで
ハーブは生き物です。自身で育とうとする力を備えています。なので「育てよう」とするのではなく、育とうとする手助けをする気持ちでいるほうがうまくいきます。手をかけることが愛情ではありません。手をかけすぎずに、でも、必要な時は手を貸してやることが大事です。
一度で諦めない
相手はいきものです。それに、自然という大きな力も影響します。一度うまくいかなくても、同じような育て方で次はうまくいくことがよくあります。「偶然」うまくいかないことも起こりうることを覚えておきましょう。
ときには諦めも肝心
何度やってもうまくいかない場合はそもそも環境があっていないのかもしれません。もちろん、育てるのが難しい種類をどうにかして育てるのも園芸の一つの楽しさですが、どうしても育てようとすると農薬に頼ってしまう誘惑に駆られます。初心者の場合は無理せず育てやすい種類から始めましょう。また、どういう種類が難しいかがわかってくると育てるのがずいぶん楽になります。
例えばベルガモット(モナルダ)はうどん粉病にかかって当たり前といってもいいぐらいよく感染します。かといってそれで枯れてしまうようなことはあまりないので、「そういったものなんだ」ととらえることも大事です。
また、葉っぱのアブラムシ被害が治まらない時は、一旦バッサリと剪定したり、場合によっては1からやり直して育ててみることも必要です。
趣味のハーブ栽培、無理をして育てても楽しくはありません。諦めることも時には大事と思いましょう。
いろいろな生きものに興味を
無農薬で育てていると、害虫に限らず、いろいろな生物に出会う機会が増えます。昆虫、鳥、小動物、微生物・・・植物は独立して生きているわけではありません。周りの沢山の生物と関わり合いながら生きています(私たち人間もですが)。
まれに、昆虫は全て害虫であると思っている方もいらっしゃいます。後半で説明する天敵の中にも見た目は明らかに極悪そうなものもいたりするのですが、人間でも、見た目は怖くてもじつは優しい人がいるのと同様、付き合ってみないとわからないものです。
周囲の生き物にも関心を持てるようになると、育てるのがより楽しくなりますし、農薬を使わない意味もいっそうわかるようになってくるでしょう。
完璧を望まない、失敗を恐れない
「病気や害虫をゼロにしよう」と思うととっても大変です。たとえば少しぐらいアブラムシがいても、丈夫に育っていればハーブは成長します。一匹もいないようにと目くじらをたていては、ハーブを育てているのか、アブラムシを探しているのか本末転倒になりかねません。
いちど、公園や野山で自然の状態の草花や樹木をみてみましょう。丈夫な雑草といえども虫食いの大きな穴が空いていたり、樹齢何十年という大木の葉も水切れや強い風で傷んだあとが残っています。
人間の力では自然を完全にコントロールすることはできません。少々残っていても「まあいいか」ぐらいの気持ちになることが大事です。
そもそも初めて育てる時は失敗はつきものです。失敗もまた大きな学びです。失敗を恐れないようにしましょう。
以上のような心構えをもっておくと、無農薬栽培も決して難しくはなくなると思います。
無農薬で育てる時のポイント
次は、無農薬でハーブを育てる際の、ポイントをいくつかご紹介しましょう。いずれも栽培が上手な人はご存知なことばかりです。
1に観察,2に観察,3に観察
まずは、とにかく観察が大事です。無農薬かどうかを別にしても植物を育てる場合、観察上手が育て上手なのは間違いありません。日々のちょっとした変化に早めに気がつくことはとても重要です。
写真を活用しましょう
毎日見ていると、かえって変化に気がつきにくいこともあります。いまはスマホなど気軽に写真を撮れる環境が整っていますから、時々写真を撮っておくと良いでしょう。「なかなか育たない」と思っていても、少し前の写真と比べてみると案外育っているものです。いい写真が撮れたら、ぜひ、「ハーブ・フォトコンテスト」にも応募してみて下さい。
丈夫に育てる
病害虫の被害に遭わないためには予防、なかでも過保護にせず、厳しく育てることが大事です。厳しく育てると、香りも強くなり、害虫が嫌う成分も増えます。また、葉も厚く、固くなってきて、病気の原因になるウィルスなどを寄せ付けにくくなります。
極力屋外で育てましょう
丈夫に育てるために、風と太陽、雨は無農薬栽培を助けてくれる力強い味方です。雨や風は害虫を洗い流しますし、太陽の光ほど植物を健全に育ててくれる光はありません。アブラムシがつきやすかったのに、風当たりが良い場所に移動したら被害が少なくなったという報告もあります。
病気に対しても、うどん粉病などは特に風通しと日当たりが悪いところで発生します。また、気温の上下も刺激という意味ではとても大切です。屋内で無農薬栽培するということは非常な困難が伴います。特に初心者の方にはおすすめできません。
刺激は大切
上記の雨や風、気温も植物にとっては適度な刺激になりますが、われわれ育てる側が与える刺激もハーブの生育には大事です。放っておくよりは、きちんと剪定したり、植え替えたりする刺激を与えることでハーブたちは健全に育ちます。
加温しないこと
よく、家庭用の小さなビニールハウスが市販されていますが、加温という意味ではとても難しいです。寒さよけとしてぐらいなら使うべきですが、温める為に使おうとすると温度のコントロールが難しくて、軟弱に育ってしまいがちです。よほど寒さに弱いハーブか、よほど寒冷地で育てるのでなければ、加温はお勧めできません。
肥料と水は控えめに
肥料のやりすぎが病害虫の原因になることがよくあります。肥料を与えることが育てることではありません。鉢の場合、追肥するならむしろ植え替えをしたほうが良いことが多いものです。また、地植えの場合はもともと土の中にある肥料分を吸収するために根は伸びていきます。習慣的に肥料を与えるのは避けましょう。
水やりはとても奥深く、不足もダメですがやりすぎはもっとよくありません。こればかりは試行錯誤して慣れるしかないのが水やりです。下記ページに詳しくまとめてあるので参考にしてみてください。
無農薬栽培の病害虫対策
上のように、一番大事なのは予防です。でも、時期的な原因だったり、種類の問題だったり、環境的にもどうしても避けにくい病害虫もあります。最初の心構えで説明したように、諦めて思い切って剪定するなどの方法もありますが、病害虫発生初期の段階で気付いたら、下記のような方法を試してみるのも良いでしょう。
テデトール
害虫を手で取るのは一番確実な防除方法です。もちろん、ピンセットやブラシ、手袋なども活用しつつ、効率的に行いましょう。
文明の利器を活用しましょう
シャワーや、歯ブラシ、粘着テープなど、文明の利器ははどんどん活用しましょう。特に近年、害虫の捕殺に粘着テープを使われる方も多いようです。シャワーを上手に使った洗い流しは雨以上の効果があります。下記ページに動画もあわせて紹介していますので参考にしてみてください。
ハーブのアブラムシ対策天敵の活用
ハーブを育てるのは私たち一人一人、対する害虫は何十、何百という数になります。とても一人で対応していてはたいへんです。ぜひ天敵を活用しましょう。例えばアブラムシの天敵のてんとう虫は、幼虫時代から数えると一匹で数千匹のアブラムシを食べると言われています。味方につけない理由はありません。同じくカマキリなどの小さな肉食昆虫やクモ、カエルなども働き者の天敵と言えるでしょう。
危険を伴う昆虫ですが、アシナガバチも芋虫や毛虫を捕食する力は強いです。上手に付き合えば頼もしい助っ人です。
ちなみに天敵を活用するという意味で防虫ネットはあまりおすすめできません。害虫も遮断する分天敵も入ってこれなくなります。
余談ですが、もう何十年も前、当店の一つのビニールハウスでやはりアブラムシやカイガラムシを防除するため、側面に防虫ネットを取り付けたことがあります。最初は良かったのですが、おそらくハウスコナジラミと思われる害虫が大発生して大変なことになりました。以来、ビニールハウスは一年中を通して開けっ放しです。
自然素材の活用
酢や木酢、石鹸などを活用することもありますが、万能ではなく、どちらかといえば予防的な側面の方が大きいです。またいずれも使い方にコツが必要です。まずは「丈夫に育てる」ことを念頭に、補助的に使ってみると良いでしょう。
その他
他にも無農薬栽培をするに当たって、次のようなことも覚えておくと役に立ちます。
時期やタイミング、種類によって無農薬栽培の難易度は変わります
同じハーブでも育てる時期によってずいぶん違います。例えばバジルも、あまり早く栽培をスタートするとちょうどアブラムシの発生時期と重なり、また、柔らかい葉が出やすいこともあって被害にあいやすくなります。
一方で、5月以降、気温が上がり、日差しも強くなると硬いしっかりした葉がつきやすく、アブラムシの心配はずいぶん減ります。
一般に秋から冬は病害虫が少なく、安心してみていられますが、成長著しい春から初夏はそれなりに注意が必要です。
ゆっくり成長する種類や時期を選ぶ
そのシーズンのうちに開花し、種子をつけるために急激に成長する一年草は病害虫のターゲットになりやすいと言えるでしょう。例えば、暖地で春からジャーマンカモミールを育てると柔らかく育った枝や葉にアブラムシがつきやすいものです。
一方でローズマリーのように成長のタイプが樹木に近いものは枝も硬く、病害虫の心配が少なくて済みます。同じ暖地でも、ジャーマンカモミールを秋から育てて冬越しさせるとしっかりした株になってもしアブラムシがついても被害が少なくて済みます。
記録も大事
記録も残しておくとなお良いでしょう。花が咲いたとか、落葉したとかの日や、病気や害虫がでてきた日を記録しておくと後々参考になります。特に病気や害虫は同じ頃に出やすいので、3年日記とか、5年日記のようなものは後で読み返すときに便利です。
まとめ
見えないものの方が本当は怖い
農薬は、病気にせよ、害虫にせよ、目に見えるものについての対策です。病気や害虫は目に見える分、気になってしまいますが、目に見えないものの方が本当は恐ろしいものです。現時点で安全性が高いと言われている種類の農薬も、未来永劫そうだとは限りません。科学技術が進めば進むほど、かつて安全と思われていたものに危険性が見つかるのは歴史が証明しています。
不安に思いつつ料理やハーブティーを口にするよりは、無農薬で育てて安心して楽しむ方がどれだけ気持ちがよいことでしょう。
また、無農薬で育ててみることは、我々が日々接している農産物を無農薬で育てることがどれだけ大変かということにも気づかせてくれます。我々が生きるために口にする食料を生産する人たちのことを考えるきっかけとしても無農薬で育ててみる意味があると思います。
いかがでしたでしょうか。もし、まだ良く分からないことがあるという方のためには初心者の方専用ホットラインをご準備いたしております。ご質問等お気軽にお寄せください。