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目標は水やりを必要としない庭・畑
「ハーブを植えましたが、水やりはどの程度したら良いでしょう?」
実際によくいただく質問ですし、初心者の方ならば、一番聞きたい質問の一つかもしれません。
こう尋ねられた時、逆にお尋ねするのが、「地植えですか?鉢植えですか?」という点です。
地植えならば、「基本的に水をやらなくても大丈夫です」、ただし、「植えた時にはたっぷりと与えてください。」とお答えします。
鉢植えならば、「一概には言えませんので、当店の『初心者のためのハーブ講座』の『ハーブの水やりを考える(鉢植え編)』をご覧ください」とお答えします。
では、本当に水をやらなくても大丈夫なのでしょうか。はい、大丈夫です。そして、水をやらずに雨水だけで育つのが理想です。今回の講座で、水やりなしの庭や畑づくりを目指しましょう。
水やりは本当に必要?
園芸作業の中でも水やりは楽しい作業の一つです。水を与えたハーブたちの葉から水滴が涼しげに滴り、暑い時期ならば自分がシャワーを浴びているかのような爽快さもあります。「お水をやった」、「手入れをした」という充足感、満足感も比較的楽な作業で得られます。
でも、もともと野生で育つハーブには雨や雪など自然の水だけで成長しています。誰かが水を与えることはありません。ハーブに限らず、野山の樹木や草花も誰から水を与えなくても育っています。
ましてや日本は世界平均の2倍の降水量があると言われています。むしろそのような状態で更に水を与えることは過剰な水やりになりかねません。
だいいち、雨水だけで育てばこんなに楽なことはないですよね。
水やりのデメリット
お庭や畑のハーブに水やりをすることは確かにハーブを手入れしている、可愛がっている感が大きい作業です。草取りなどと違って気楽ですしね。
でも、ハーブや私たちにとってもデメリットが大きい作業なのです。
手間がかかる
比較的軽作業とは言え、ホースを引き回したり、またしまったり、お庭や畑が広ければそれなりに時間もかかります。スプリンクラーでも設置してあれば別ですが、年間を通せば必要でない時間をずいぶん無駄にする事になります。
資源の浪費
必要でない水を与えることは資源の無駄です。植物は必要としない水分までわざわざ吸い上げることをしません。井戸水ならまだしも、水道代(下水道代も!)をつかってまで不必要な水やりをするのは意味がありません。
たとえば、10坪の庭に降る雨の量は、年平均の降水量1700mmとして考えると、年間では、一般的な浴槽で200~300杯ぶんにもなります。その上にさらに水を与えることが必要かどうか、考えてみる価値はあると思います。
軟弱に育ちやすい
必要のない水を与えると、根の周りの土が湿りがちになります。周りが湿っていれば、ハーブもわざわざ根を伸ばそうとはしません。そのうえ、水分が多いと、茎も柔らかく伸びて倒れやすくなり、軟弱に育ちます。軟弱に育つと、病害虫の原因にもなります。まさに悪循環です。
香りが弱くなりやすい
ハーブの香りの成分は過酷な環境でより強くなり、水分や肥料が多い場所では弱くなります。特に香りを重視する種類には水分が多いのは禁物です。
少雨、渇水時に弱い
いつも水をやっていると、根が伸びにくいとすでに述べましたが、根が少なくて地上部が柔らかく伸びていると、いざ雨が降らない時にはすぐにしおれてしまいます。しおれるから水をやる、なおさら根は伸びない、更にしおれるという悪循環に陥ります。まして近年の異常気象、渇水の夏になる可能性も昔より高くなるかもしれません。給水制限や節水を求められる夏にでもなった場合、水やりを続けている庭では、目も当てられません。
土壌、養分の流出
過剰な水やりは土壌の団粒構造を壊し、保水力を弱めます。さらに土壌自体が流出したり、肥料分も水とともに流れてしまいます。
このように、必要のない水やりは、ハーブにとっても迷惑、デメリットなだけといっても過言ではないでしょう。
例外
とはいえ、もちろん例外もあります。
極端に水はけが良い環境
砂地のように極端に水はけが良かったり、水分を保持する力がない土の場合は最低限の水やりは必要です。ただ、それよりも保水力のある土壌に改良することが必要でしょう。
水を必要とする種類、育て方
柔らかく、大きな葉を広げ、水分の吸収や発散が多い種類の場合は水やりも必要です。ただ、もともと日陰を好むような種類を日向に植えている場合なども考えられますので、植える場所を変更することも考えて良いかもしれません。
また、意図的に柔らかく成長させたくて水を与える場合もあります。当店でも自家用菜園のバジルには、梅雨明け以降時々水をやります。残念ながら、気温が高くて水分が少ないと、硬くて口触りがあまり良くないですからね。
渇水期
いくら水をやらない方が良いとは言っても、極端に晴天が続いた夏などは水やりをせざるを得ない場合もあります。こういった場合は、土も水を吸いにくいですので、何度かに分けて与える必要があります。
定植後や移植後
定植や移植を行なった後は適宜水やりは必要です。中でも、細い根が少ない種類のハーブを移植した後はしばらく水やりを続ける必要も出てきます。
雨が当たらない場所
軒下の花壇など、物理的に雨がかからない場所もあります。こういったところは水やりが必要です。ただ、表面は乾いていても、土の深い部分は湿っていることも多いものです。乾燥に強い種類を植えて、根を深く伸ばすような育て方が有効です。
スタート時期が肝心
水やり不要のお庭作りで一番大事なのは、いつから始めるかです。年中いつでもできるというわけではありません。例えば梅雨明けからスタートなどというのは一番困難です。
春からスタート
比較的スタートしやすいのは春でしょう。まだ株が小さかったり、気温も低くて水分を吸い上げる量が少ない時期なので、この時期からならば水やりをしない庭造りも可能です。もしも昨年までたっぷり水を与えているハーブがあれば、1/3~1/2程度剪定して、葉の量を少なくした上でスタートしましょう。
春に植え付けた苗については、植え付け後、しばらくは水やりをして成長が見え始めたら一度ストップしてみましょう。もちろん、根付くまでは天気もよく観察の上で。極端に気温が上がったり、強い風が吹くときは要注意です。必要に応じて水を与えることもあるかもしれません。雨が降る前ならなおさら楽です。我々も、あえて雨降りの前に植え付けることがよくあります。しっかり雨が降れば、ジョウロなどよりもはるかに丁寧に水が染み渡ります。
理想は秋・冬から
もっと簡単なのは秋冬スタートです。秋に定植すれば、春に比べて時間はかかりますが安定して根付きます。一度根付いたら、水やりなしで観察を続けましょう。なかなか成長しないと心配する必要はありません。気温が下がると、成長しなくて当然です。落葉性で寒さに強いものは冬スタートも可能です。一つ気をつけたいのは、冬場に雨が少なく、乾燥が続く地域の場合。次に紹介する、マルチなどで対応してみましょう。
役立つテクニック
マルチを活用
水分は葉からも蒸散で逃げていきますが、土の中の湿り気は土の表面からも逃げていきます。それを防ぐために、マルチを積極的に活用しましょう。
マルチは、敷き藁を株元に敷き詰めたり、バーク堆肥や腐葉土、ウッドチップなども使われます。レモングラスのように高温多湿を好む種類はビニールマルチも有効です。ススキなど、イネ科の植物の葉や茎も使いやすい素材です。秋なら落ち葉を集めて厚く敷くのも良いでしょう。そのほか、布やダンボールなど、マルチに使える素材はたくさんあります。色々試してみましょう。これらのマルチを施すと、土表面の乾燥を防ぎ、また、土壌の風化も防ぎますので一石二鳥です。
剪定で調整
初夏など、気温が急に上がって一気に成長することもあります。場合によっては葉から出て行く水分と根から供給される水分のバランスが崩れて一時的にしおれたり、成育不良が起こることもあります。そんな時には剪定して葉の量を減らし、根の負担を減らしてみましょう。ただ、夕方しおれていても、朝にはまたシャキッとなるようならもう少し我慢。適度なストレスは根を伸ばすためにも必要です。
防風対策
場所によっては強い風がしばしば吹き付けることもあります。風によって葉から水分が奪われやすいと、水も切れやすくなります。防風ネットや、防風用の樹木で垣根を作るなど、風を防いでやると水やりなく育てやすくなります。
保水力のある土作り
なかなかはじめからは難しいことかもしれませんが、土壌改良をすることで土の中にこまかい隙間をつくり、保水力のある土作りに努めましょう。微生物を始め、生き物の多様性のある健全な土は、水持ちもよく、根も健全に育ちます。
まとめ
以上のような方法で、水やりをしないお庭や花壇、畑を作ることができます。当店が今まで手がけてきたお庭や花壇、そして当店の畑も基本水やりを行いません。今の所、極端な干ばつの時以外は問題なく育っています。
もちろん、近年の異常気象のもとでは、高温が続いたり、長期間雨が降らないことも十分あり得ます。どうしてもしおれそうな場合は躊躇せず水やりをしましょう。ただ、上記のような育て方をすれば、過酷な環境にも耐えやすくなります。
水をやらないで済むというのは、容器栽培に比べて、地植えの大きなメリットの一つです。地上部よりも根をしっかり育てるつもりで行えば、ハーブの場合、水やりなしのガーデニングは十分可能です。ぜひ試してみてください。
いかがでしたでしょうか。もし、まだ良く分からないことがあるという方のためには初心者の方専用ホットラインをご準備いたしております。ご質問等お気軽にお寄せください。