水やり3年
ハーブを初めて育てるという方からはいろいろなご質問をいただきますが、なかでも最も多いのが「水やりはどのようにすれば良いですか?」という質問です。
よく、「水やり3年」と言われます。実際、我々も何十年も水やりをしているのに未だに日々悩んでいるのがこの水やりだったりします。
ハーブの種類や用土、成長具合や季節、環境など、さまざまな要因で適切な水やり方法は変わります。そのため、なかなか簡単に説明することができないのが水やりの方法です。
今回、初めて育てる方にもできる限り分かりやすく説明してみたつもりですが、かえって混乱してしまうこともあるかもしれません。
ただ、「ベストな水やりはその人その人で異なる」ということだけは確かです。
試行錯誤もまた園芸の楽しみの一つです。今回の講座はひとつの例として、自分ならではの水やり方法ができるようになるための参考になれば幸いです。
まずは一読していただいて、大まかな雰囲気をつかんでいただければ良いと思います。その後、実際に水やりをしてみて、問題や疑問が出てきた時に読み直すとポイントがつかみやすいでしょう。
道具と水やり方法
さて、最初に、水やりに使う道具と基本的な水やり方法を説明します。
道具
ジョウロはあったほうがベター。ハス口付で先が取れるものを
水やりは基本的にジョウロで行います。ジョウロの先は細いものよりは、ハス口(はすぐち・水がシャワーででるもの)の方が良いでしょう。かつ、可能ならハス口が取れるものがあるとよいでしょう。
先が細いジョウロは、土がえぐれやすく、慣れるまでは均一に水をやるのは難しいと思います。慣れてくれば、コーヒーポットなどでも代用できるようになりますが、シャワー状の方が、葉にもかける事(後述)ができますので、おすすめです。
たくさんの場合は散水用ホースにハス口をつけて
株の数が少ない場合はジョウロで対応できますが、鉢が多かったり、地植えの場合は水を汲むことさえひと苦労です。散水用ホースにハス口をつけて水やりをすると良いでしょう。
方法
基本的な方法は、上から、葉や茎にもかかるよう、たっぷり与えることです。量は「何リットル」という基準ではありません。毎回、鉢の底から流れ出すぐらい与えましょう。
葉にかけるかどうかは色々な考えがありますが、害虫などを洗い落とすことも考えると葉にもかける方が良いでしょう。そもそも自然の中では葉は雨や風にさらされています。ただ、真夏、葉の表面温度が上がっている時は、急に冷たい水をかけると柔らかい葉の場合、傷むことがあります。このときだけは葉にかけることを避けると良いでしょう。
底面吸水と水受け皿
底面吸水はおすすめしません。上からしっかり水をかける方が良いでしょう。土の中の老廃物を水で流し出すためにも上からたっぷりの水を与えましょう。
もちろん、水受け皿を使っている場合は、溜まった水は捨てると良いでしょう。
鉢植えの水やり
一般に水やりというと、鉢植えの水やりを指すことが多いです。鉢植えでの水やりは、植え付けて活着するまでと、活着後、成長して始めてからの水やりに大きく分ける事ができます。
植え付け時の水やりと、活着するまでの水やり
植え付けした時には特にたっぷり与えましょう。最低でも鉢の下からたっぷり流れ出るまでは与えます。特に、乾き切った土ですと、最初に水を吸いにくいこともありますから、少し時間をおいて2、3度繰り返すことも必要です。
その後、ハーブが活着するまでは、極端に乾かないように日々の観察が必要です。特に夏など、気温の高い時には最初の2、3日は土の乾き具合に気をつけましょう。必要なら毎日与える場合も出てくると思います。とはいえ、いつもジメジメしていては、根が伸びようとしなくなります。このあたりが難しいのですが、しおれないように気を付けつつ、かといって過保護にならない程度の水やりを心がけましょう。
活着したかどうかの目安ですが、ある時からそれまでには見られなかった明らかな成長が始まったら活着したと考えて良いでしょう。この兆しも、暖かい季節はよくわかりますが、気温が低い時期や落葉期にはやや判断が難しくなります。おおよそひと月ぐらい、枯れずに育っているようなら大丈夫だと考えましょう。
活着後の水やり
さて、無事活着したようなら次のステップにはいります。
水やりの方法として「土の表面が乾いたら」とよく言われます。慣れないうちは、この基準でもよいでしょう。目で見て一番わかりやすい方法です。
とはいえ、「乾いたら」という判断もまた難しいところです。
土の表面が乾いていても、土の中は案外湿っているということもよくあります。わかりにくければ土の表面を少し掘ってみましょう。中は案外湿っていることが多いものです。
慣れてくると、鉢を持ち上げて、その重さで土の中が湿っているかどうかわかるようになります。時々は水やりをする前と水やりした後で鉢を持ち上げてみると良いですね。
いつも湿っていると根が育たない
慣れないうちは、つい「乾かないように」ということばかり気になるものですが、では、なぜいつも湿っているといけないのでしょう。その理由は、いつも湿っている環境では、ハーブも根を伸ばそうという気にならないからです。いつも土が湿っていて水を確保できるならわざわざ苦労して根を伸ばす必要がありません。そのため、地上部は大きくなっても、根は少ないままという育ち方をしてしまいます。
このような根では、急に乾いてしまうと、一気にしおれてしまいます。急にしおれるのでまた水をたっぷりやってしまうと、根を伸ばそうとする前に水が与えられ、また根は伸びない・・・という悪循環に陥ってしまいます。
水やりから次の水やりまでの期間をどれほど開けることができるか
よく言われる、「○日に一回」というかたちで漫然と水をやるのはお勧めできません。丈夫なハーブを育てたいのであれば、水やりから次の水やりまで、どれぐらい期間を開けることができるかがポイントです。
一回水を与えたら、なるべく次の水やりまで期間をあけます。そして、すこし乾きすぎたかも・・・というタイミングでたっぷり水を与える様にするのが一番良い水やりです。そのためには観察が一番大事です。
水やりの期間・回数が変わる6つの条件
もちろん、一回水を与えて、次に水やりをするまでの期間はいろいろな条件で異なってきます。どういう条件があるか見ておきましょう。
(1)春夏秋冬、季節によって変わる
水やりは季節によって違います。夏と冬で同じ水やりをしていては、乾燥で枯れてしまうか、根腐れを起こすかのどちらかです。例えば、当店の苗のような小さいポリポットであっても、冬は1週間以上水を与えないこともあります。一方で夏は1日に2回与えないといけない日もあります。春秋であっても、空気が乾燥している時と湿っている時では違いが出てきます。
(2)育ち方で変わる
同じハーブ、同じ季節でも、育ち方によって違います。沢山葉が茂っているならば、葉から出て行く水分も多くなりますし、まだ葉が少ない場合や落葉期で葉がなかったりすると水を吸い上げる量も少なく、鉢が乾くまでも時間がかかります。
あわせて、花の時期はそれまでよりも急に水を吸うことが多くなります。例えば乾燥気味の水やりで順調に育ってきたラベンダーなのに、花が上がってきた途端しおれやすくなり、時にはつぼみごと花茎が茶色く枯れてしまうこともあります。
花を咲かせている時はちょっと特別な時期だと意識してやると良いでしょう。
(3)植物の種類で変わる(葉を見よう)
一般に、葉が大きくて柔らかなハーブは水をよく吸い、葉からもたくさん水分を出します。例えばバジルやミントなどがそうですね。反対にローズマリーやラベンダー、タイムのように、葉が小さくて硬いハーブは乾燥を好むように、消費する水の量は少なめです。葉の姿形を見ると、水をよく吸うのかそうでないのかのおおよその検討がつくと思います。全然違うタイプのものに一様に水やりをしていると、どちらかがよく育ち、どちらかは不調になることもあります。
(4)土の性質で変わる
いろいろな土を使っていると、乾き方が違うことに気付かれるかもしれません。特に、出来合いの花鉢などを育ててみるとよくわかります。土の性質は水やりの回数に大きく影響を与えます。もし自分で土作りをする場合は、水やりがやりやすいような土作りを目指しましょう。普段仕事で家を開けることが多いのに、すぐに乾いてしまう土では、いつも水やりばかりしていることになります。
(5)鉢のサイズや素材で変わる
鉢が大きいと土の量も多くなりますのでその中にためておける水分も多いですし、小さい鉢ですとすぐ乾いてしまってすぐに水やりをしないといけなくなります。また、通気性の良い素焼き鉢の場合は水が乾きやすいですし、一方でプラ鉢はなかなか乾きにくいことが多いものです。上記の水をよく吸う植物、吸わない植物と鉢を上手に組み合わせるのも良いでしょう。よく吸う植物には大きめのプラ鉢で、乾燥を好む植物には小さめの素焼き鉢でという組み合わせなどが考えられます。
(6)環境で変わる
もちろん、育てる環境でも水やりの回数は変わってきます。日当たりと風通しの良いベランダではすぐに乾いてしまうでしょうし、反対に家の北側で奥まったような場所ならば、なかなか乾きにくいものです。乾きすぎ、湿りすぎの場合は場所を変えてみるのも良いでしょう。また、雨がかかる場所の場合、夏以外、特に冬場はほとんど水やりが不要になることも多いものです。
さらに、実際にはこれら複数の条件が重なってきます。「○日に一度」という言い方がいかに無責任かがわかっていただけると思います。
夏は、朝と夕方、どちらに水をやるのが良いか
毎年、必ずと言っていいほど尋ねられる質問です。
長く園芸に携わっている人でも、朝派と夕方派、どちらもいらっしゃいます。しかも、それぞれが然るべき根拠を持っておられます。
朝派は
「夜はまだ土に熱さが残っていて水を与えると根が傷む。朝の水やりは、夜の間に土の温度が下がっている。」
と言いますし
夕方派は
「朝に水をやると、その後の日射で、すぐ土が乾いてしまう。夕方ならゆっくり水を吸わせられる。」
と主張します。
どちらの主張もそれぞれもっともで、正直、どちらに軍配をあげていいか判断に困ります。
なので、
「お客様が水やりをしやすい時間帯はいつですか?」
とお聞きするようにしています。
朝がいいからといって、出勤前で忙しい方が、水やりに時間をかけるべきではないでしょうし、夜帰宅が遅い方が夜に水やりするのもどうでしょう。
むしろ、時間に余裕があって、ゆっくり植物と向き合える時間に行うのがベターです。
または、植物をチェックできない長い時間があるのなら、その前にたっぷり与えておく方が良いでしょう。日中仕事で出かけているのならば、朝にやる方が良いですし、普段家にいることが多いなら、夕方にたっぷり与えておけばよいでしょう。
では、真昼に萎れてきた時はどうしたらよいでしょう。もちろん、前述したように真昼に与えると、冷たい水が急に葉に当たって葉がいたんでしまう危険もありますが、そんなことは言っていられません。葉や土が冷えるのを待っていてはとりかえしがつかないことになりかねません。真昼であろうと、土がどんなに熱かろうと、しおれかけていたら躊躇せずに与えましょう。
水が切れやすいハーブを基準にしてみる
たくさんの種類をそだてている場合、もちろん、それぞれの鉢の様子を見ながら水やりをするのがベストですが、鉢が多くなってくるとそれも大変です。そんな場合は、水が切れやすい(しおれやすい)種類を基準に水やりをするのも良いでしょう。育てていると「あ、これは一番最初にしおれ始めるな」という鉢がわかるようになってきます。ゆっくりそれぞれの鉢を観察できる余裕がない時などはその鉢がしおれ始めるのを待って全体に水やりするようにしても良いでしょう。
水を吸わなくなったら
土が古くなったり、根が詰まったり、土が極端に乾燥してしまうと、水を与えてもまるで素通りしてしまうみたいに鉢底から流れ落ちてしまうことがあります。
そんなときは、たっぷり水を入れたバケツに鉢ごと浸してしまいましょう。深さは鉢の深さまで。時間は1時間から半日程度で良いでしょう。土の吸水力が戻り、以前のように水を吸いやすくなります。
もしそれでも戻らない場合は、植え替えする方が良いでしょう。
まとめ
ハーブを上手に育てている方が、今回説明したことを頭で考えてやっているかというと、そんなことはありません。
多くの方が感覚的に身につけて水やりをしていらっしゃると思います。
最初は水やりで失敗することも多いとは思いますが、なぜ失敗したかその理由を見つけることができれば徐々に水やりの勘所もつかめてくると思います。
次回は地植えのハーブについての水やりについて解説する予定です。
いかがでしたでしょうか。もし、まだ良く分からないことがあるという方のためには初心者の方専用ホットラインをご準備いたしております。ご質問等お気軽にお寄せください。